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建築家に聞く、マンションの断熱リフォームのポイント

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建築家に聞く、マンションの断熱リフォームのポイント

住まいの温熱環境に明るい建築家・廣谷純子さんは、ご実家の築38年のマンションを断熱リフォームしました。温度差の少ない環境となり、季節の変わり目に風邪もひきにくくなったそうです。どのようなリフォームを行ったのか、またマンションにおける断熱のポイントもうかがいました。

太陽や風の力を活かして、断熱リフォームを実施

学生のころ、建物の熱環境の研究に勤しんだ廣谷純子さん。卒業後はサステイナブルな建築を手がける設計事務所などで研鑽を積み、2011年の独立と同時に、築38年のご実家のマンションに戻ることになりました。しかし老朽化が進み、とくに水回りの配管に関して、お母様の不安が募っていたといいます。東日本大震災も、その気持ちを強くさせる出来事でした。

Q(質問) 室内環境をよくするために、どのような断熱リフォームをしたのでしょうか?

A(答え) 改修を決めたとき、これまで取り組んできた、自然の力を利用して環境を整える手法を実践しようと思いました。調べてみると、マンションの主要な部屋はほぼ真南を向いていて冬の太陽光を取り込めるし、夏は太陽の位置が高いので、ベランダが庇となって室内には射し込みません。季節ごとに変化する気候を反映した設計がなされていたんです。

とはいえ、断熱に関しては十分ではありません。自宅の改修でもいくつか工夫を施すことにしました。まずは窓に樹脂製の内窓を取り付けました。南北の窓には庇があるので、通常のペアガラスのサッシを、庇のない東側の出窓には、太陽光を遮る機能を持つLow-Eガラスを採用しました。さらに、屋外に面した部屋の壁、天井、床に断熱材を充填し、一部隣の住戸との間の壁にも断熱材を入れました。

昔の集合住宅では一般的だった鋼鉄製の玄関ドアも隙間が多く、外気の影響を受けやすいところ。玄関の両サイドに位置する、個室と洗面所、浴室は、玄関ドアから伝わる冷気や暖気で冷暖房の効率がよくありませんでした。そこで、玄関スペースに引き戸を設けて仕切ることで、南側の部屋であたためられた空気を両側の部屋にも採り込めるようにしました。

通風も改善しました。個室を南北に並べた東側は、壁と収納によって風が遮断されていたのですが、収納扉を2室から開けられるようにすることで、南北に抜ける風の道を確保しました。出窓のある東の窓からもダイニングに風が抜けるように、引き戸の位置を変更しました。いずれも閉めればプライベートを守ることもできます。

Q リフォーム後の生活はどのように変わりましたか?

A 改修前の夏、母は日中エアコンをつけずに窓を開けていました。ところが夕方になると窓とカーテンを閉め、エアコンをつけるんです。それは「日が落ちる=気温が下がる」という自然のリズムが身体に刻まれていて、夜なのに部屋が暑いことが不快だったのかもしれません。でも、改修後は、夜には涼しくなりました。

その母は、闘病を経て他界したのですが、療養のため病院から家に連れて帰ることに躊躇はありませんでした。それは改修によって、家が快適になっていたからです。私自身も、季節の変わり目に風邪をひきにくくなりました。急激な温度変化が少ないからだと思います。

改修後、外気温が一番下がる2月に北側の洗面所でも15℃を下回ることがありませんでした。 改修前はとても寒かったので、身体も楽になり、暮らしやすくなりました。予想外によかったのは、室内が静かになったこと。断熱が遮音にも効果的だったんです。

Q マンションリフォームで断熱性能を上げるポイントはどんなことでしょう?

A まずは内窓と玄関内戸の設置に、外部に面した壁・床・天 井をしっかりと断熱した上で、 冬は暖気を行きわたらせるようにエアコンなどの熱源の位置を整理すること。夏は風をくまなく通すことが大事です。

それと、今後何年住むのか、また家族構成の変化も断熱改修の要になります。終の棲家としてなら、全面的にしっかり改修すべきでしょう。将来的にお子さんが独立して、親も引っ越しする可能性があるケースでは、優先順位を整理して提案をすることもあります。ライフステージによる住まい方の変化も考慮したいですね。

マンションの断熱リフォームのポイント

外部に面した床・壁・天井にはしっかりと断熱を

外に面した壁床には断熱材

右:お母様の部屋 (左) もリビングも、外部に面している。その部分の床・壁・天井には十分に断熱材を充填した。
左:お母様の部屋の隣、南に面したお父様の部屋。ここも外部に面した床・壁・天井に断熱材を施している。

外部に面した窓には すべて内窓を設置

外部に面した窓には すべて内窓を設

東側に面した部屋の出窓には直射光を遮るタイプのLow-Eガラスによる内窓を取り付けた。庇のある南側 (リビングとお父様の部屋) と北側の窓は通常のペアガラスの内窓とした。

南側の畳を敷いた居間。窓のある壁面に断熱材を入れると共に、隣戸側の壁にも断熱材を充填。

南側の畳を敷いた居間。窓のある壁面に断熱材を入れると共に、隣戸側の壁にも断熱材を充填。遮音効果も発揮され、「部屋にいるととても静か」と廣谷さんは話す。

引き戸は開閉によって風と熱をコントロール

引き戸は開閉によって熱風をコントロール
室内の建具はすべて引き戸に変更した。開け閉めで風や熱の流れをコントロールでき、開き戸のようにスペースを取らないので、人の動きの邪魔をしない。

左:玄関の内戸。ここは戸を引き込むスペースが取れなかったので、3連の引き戸とした。
中央:玄関脇の水回りもすべて引き戸に。
右:ご両親の部屋の間も引き戸。その先の収納は、両方の部屋から開けられるようにして通風を図った。

 

廣谷純子 ひろたに・じゅんこ

廣谷純子<ひろたに・じゅんこ>
1995年武蔵工業大学(現・東京都市大学) 工学部建築学科卒業。1995~2003年野沢正光建築工房勤務。2003~2005年武蔵工業大学宿谷研究室に所属し環境情報学を修める。2005~2011年オーガニックテーブル (現・エコエナジーラボ)で小中学校のエコ改修や、環境教育に従事後、2011年みっつデザイン研究所を設立。社会人として札幌市立大学デザイン研究科博士課程に入学し、2020年3月修了。(デザイン学博士)。
https://www.mittudesign.com

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